経営を古典に学ぶ(呉子②)

洋の東西を問わず、様々な古典から中小企業の経営において通じる原理原則を学んでいきましょう。
今回は、呉子の第2回目です。

第1回目は「古典に学ぶ経営(呉子①)」となりますので、まだご覧になられていない方は併せてご覧ください。

第三篇 治兵

行軍、勝敗の条件、兵士の訓練、軍馬について述べています。

呉起は、法令がいきわたらず、賞罰も公正を欠き、鐘を叩いても停止せず、太鼓を叩いても進軍しないようでは百万の軍勢であったとしても、役に立たないとしています。

会社という組織においては、従業員、設備、資金、ノウハウがあるだけではだめです。
それらをどのように運営していくのかの指針とルールが必要です。

例えば、最新式の設備があったとして、
前加工の仕掛品の置き場所はどこか決まっていないので、毎回探さなくてはいけない。
加工したものをどこに置くのかきまってないので、毎回次工程の人が探している。
検品していないので、歩留まりが悪い。
……このように、生産全体を統括する決まりがなければ、どんな最新設備であっても宝の持ち腐れです。
担当者が未熟である、あるいは決まりはあっても守られていないといった状況でも同様です。

付加価値の提供にあたって、全体最適化されているでしょうか。
担当者の教育は十分でしょうか。
ルールは徹底されているでしょうか。

第四篇 論将

将軍のあるべき姿、採用の仕方について説いています。

「一般に人々は将軍を評価するにあたって、いつも勇気という観点から見る。しかし、勇気は将軍としての条件の何分の一かである」と述べています。

企業でいうと将軍とは管理職となるでしょう。
管理職はオペレーションスキルだけでなく、コンセプチュアルスキルが求められ、職位が上がるほどコンセプチュアルスキルの比率と重要性が高まります。
必然的に職位に応じて求められることが変わり、それに伴って評価のポイントも変わります。
その点を理解してもらえないと、十分なマネジメントが行えません。

例えば、あるプログラマーのプログラミングのスキルが高い点を評価し、昇格させて管理職に任命したとします。
求められるのは管理する部門(チーム)全体の付加価値、生産効率、成果といったアウトプットの向上に関する諸々の業務です。
それが、自分のプログラミング技術をより向上させることに意識が向いていたら、会社が求めていることと本人が目指しているものが一致していません。
そして、頑張ってスキルアップしたのに会社は評価してくれないと、不満を感じて退職なんてことにもなりかねません。

第五篇 応変

不測の事態に対する、適切な処置について説いています。

武侯が呉起に対して、敵の急襲を受けた際の対応について尋ねるところから始まっています。
それに対して呉起は予め合図を決めていると答えています。

経営においても、インパクトの大小を問わず、不測の事態は起こり得ます。
事態の発生頻度、事態が起きた際の影響の大きさが無視できないものであれば、対策する必要があります。

不測の事態も起きなければ影響はありません。
発生頻度を下げるにはどうしたら良いのでしょうか。

天災のように発生頻度のコントロールができない場合は、地震や津波の損害に対応した保険に入っておくといったように、被害を小さくする手段を考える必要があります。

言い換えるとBCPの策定なのですが、まだ作成していないのであれば、これを機会に策定されてはいかがでしょうか。
また、策定したけど見直していないという企業様も定期的に見直して、必要に応じてアップデートされることをお勧めいたします。

第六篇 励士

兵士に対する賞罰について説いています。

「賞罰は勝利の頼みとなるものではありません。号令を発したり法令を公布したりするとき、それに喜んで服従すること。軍を出動させ、大衆を動員するときに、人々がふるって出陣すること。敵と刀をまじえ、いさぎよく命を投げ出そうとすること。この3つが君主の頼りとなるものです」と呉起は述べています。
武侯と呉起の言う「賞」が何を指しているのかは定かではありませんが、ハーズバーグの二要因理論に当てはめることができます。

二要因理論によると、仕事に対するモチベーションや満足感を感じる動機付け要因の例として、以下を挙げています。

  • 達成すること
  • 承認されること
  • 仕事そのもの
  • 責任
  • 昇進

これらが満たされると満足感を覚えるものの、仮に欠けていても職務不満足を引き起こすわけではないとしています。
呉起が君主の便りとなる3つは仕事そのものや責任に該当すると言えるでしょう。

それに対して、衛生要因として、以下を挙げています。

  • 会社の方針・管理体制
  • 上司
  • 給与
  • 対人関係
  • 作業条件

これらが満たされたからといっても満足感につながるわけではありませんが、従業員の立場からすると満たされていて当たり前のものですので、不足すると職務に対して不満足を引き起こします。
つまり、単純に報酬を上げたとしても、やりたくない仕事に対してのモチベーションは上がりません。

例えば、受注したものを生産(制作)する業務の場合、現場で生産(制作)している従業員のモチベーションまで目配りができているでしょうか。
嫌いな顧客の場合や業務内容に意味や意義を感じない場合にはモチベーションに大きく影響します。

売上高や利益も重要ですが、従業員の衛星要因を取り除くように努めることも重要です。

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