スイスと聞くとどういったことを思い浮かべるでしょうか?
アルプス、観光、金融……人によって様々でしょうが、腕時計を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。
実は、スイスの時計産業はかつて壊滅の危機に瀕したことがあります。
そこからの復興は日本の中小企業にとって学ぶべきことがあると考えています。
なぜ日本の企業はスイスの時計産業に学ぶべきなのでしょうか。
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スイスの時計産業の危機と復活
前述の通り、スイスの時計産業はかつて壊滅の危機に瀕しました。
SEIKOがクオーツ式のムーブメントを商品化し、その技術を秘匿せずに公開したため多くの企業が時計産業に参入しました。
従来の機械式時計よりも安価で高性能なクオーツ式が一気に普及したことで、機械式ムーブメントの腕時計を生産していたスイスの時計産業はクオーツショックと呼ばれるほどの危機に陥ります。
それに対して、スイスの時計産業は、腕時計を時刻を知るためのツールではなく、ファッションアイテムという位置付けで展開しました。
これが皆さんもご存知のスウォッチです。
さらに、クオーツ式の腕時計よりも性能の劣る機械式時計を伝統やステータス性を持つ高級アイテムとして位置づけて復興を果たします。
経緯に関する詳細は、SEIKOミュージアム銀座のWebサイトを参照ください。
機能的価値を高めたら
これが我が国の企業だったらどうでしょうか?
クオーツにも負けない正確性の機械式時計を作ってしまうかもしれません。
それも一つの正解ですが、競合と同じ土俵を戦うとなると、今後もずっと終わりのない戦いを続けなくてはいけません。
また、機能的な価値というものは、時間の経過とともに低下してしまいます。
現在最新式のスペックでも、年数がたてばより高性能な製品が登場します。
さらに、機能的価値での争いは、結局価格勝負に陥ってしまいます。
同じスペックでも、競合よりも安価な価格設定にする、同じ価格帯なのに競合よりもハイスペックにするといった勝負になってしまいます。
海外の動向
中国やベトナムといった国々の技術力が向上し、国内の企業から人件費の安い国々の企業へ発注を切り替えているという状況は、かつてのスイスの時計産業を取り巻く環境と似ていると感じないでしょうか。
クオーツショックは、競合の方が安価かつ高品質な製品だったので、条件が異なるはずだと思われて方もいらっしゃるかもしれません。
実際、機械式とクオーツ式を比較すると、後者の方が機能も価格も勝っていますが、我が国の製造業と海外の製造業とを比較すると、価格に対する優位性はないものの、技術力は我が国の製造業の方が高いという点は異なります。
しかし、そこまでの技術力が求められる案件ばかりではありません。
だからこそ、海外での生産が増加し、国内の案件が減少しています。
しかも、諸外国の技術力は向上しつつあるため、人件費の安い海外の企業で生産できる製品は増えています。
言い換えると、我が国の企業でないと生産できない製品は減っているということになります。
最後に
世にある製品の機能的価値が高まること自体は歓迎すべきものです。
しかし、メーカーが機能的価値を高めることだけで競合と闘おうとすると、終わりのない利益の薄い勝負になりがちです。
全ての製品において、高い機能的価値が求められている訳ではありません。
そこそこの品質を安価に調達したいからこそ、中国や東南アジア製が求められています。
スイスの時計産業のように、機能的価値外の価値……情緒的な価値をもって競合とは異なるポジションを占めることで、競合との競争を避け、収益を向上させることが、今後の中小企業に求められるのではないでしょうか。